古地図散歩というと、携帯地図を片手に散歩をイメージすると思うが、この本の「切絵図」と今の地図を比較しながら散歩と考えてもらいたい。
この本の「切絵図」は主に1853年(寛永6年)の「尾張屋板切絵図」だが、この「切絵図」がすぐれものである。
まず「切絵図」が色彩豊かできれいである。川や池、海は青、道路、橋は黄、武家地は白、神社仏閣は赤、町家は灰色、畑や山林、土手や馬場は緑というように色分けされたうえに、有名な自社の建物や名所はイラスト表記されている。
そればかりではない。大名の上屋敷は家紋付き、中屋敷は■、上屋敷は●といった表示もあるし、切絵図の名は表門の向きを表している。
この本には、A雷門・姥ヶ池コース、B浅草寺コース、C西浅草・浅草六区コース、Dかっぱ橋コース、E今戸コース、F花やしき・吉原コース、G入谷・下谷コース、H橋場コース、I石浜神社コース、J南千住・小塚原コース、K三ノ輪コースと11のコースが示されている。
この本の切絵図と今の地図とを比較しながら回るという設定だ。
不思議なことに、読んでいるだけで、スポットが頭の中に入ってくる。
これは、名所、史跡などのスポットは、歴史的経緯があるからスポットになっているのであり、いまあるスポットだけ見ても、頭に入らないことを意味している。
それが、切絵図と一緒だと、当時の状況といったものが蘇ってくる。
この本は浅草ファンにとってもたまらない一冊だろう。
姥ヶ池、久米平内堂、真先稲荷神社、妙亀塚、出山寺など、通常の観光案内とは違った伝説の世界がそこにある。
浅草に、田んぼや池、浅茅ヶ原(チガヤ)があったときの話である。
この本を手に、当時に思いを馳せて、上質な時間を送ってもらいたい。
『携帯 東京古地図散歩 ―浅草編―』から
心に残り続ける昭和のおかあさん
『浅草のおかあさん』