編集・発行が金龍山浅草寺だから、浅草寺の公式本である。
浅草について、曖昧な知識をたしかにしようと思っている人には打って付けの本である。
しかし、中古本でしか入手できない。
この本の魅力の一つは、図、縁起が多く載っていることだ。
それにより、昔の浅草をイメージできる。
浅草寺周辺は、建物こそ変わったものの、仲見世、広小路(いまの雷門通り)、馬道などの通り自体は昔から変わっていない。ここが浅草の大きな魅力になっている。
そこで、この本にある魚屋北渓の『東都金龍山浅草寺図』(天保年間1840-44)を見てもらいたい。
いまの浅草の通りにぴったり収まっていることを確認できる。
注目すべきは、いま「並木通り」と呼ばれている「雷門」の大提灯前の通りだ。
人がびっしりと駒形方面から「雷門」に向かって歩いている様子がわかる。
これは、多くの人が船でやってきて、「駒形堂」あたりで上陸したことを示している。
この本の魅力は他にもある。
浅草寺境内には石碑が非常に多いので、ついつい見逃してしまう。
この本には、石碑の一つひとつが紹介されている。石碑一つひとつにはちゃんとした縁起があるので、それを知る上で、この本は貴重である。
また、注目すべきは、この本には「浅草寺と寺宝」が掲載されていることだ。寺宝は「絵馬」と「仏像・仏画」に分かれている。
「絵馬」は展覧会などなかった時代の江戸の絵師たちが自分の作品を発表する場だった。そのため、絵師たちは絵馬の画題に歴史的によく知られた場面・事件を選んだ。絵馬に表れた場面・事件を見るだけでも楽しくなってくる。「姥ヶ池伝説」、力士の土俵入りの姿も描かれているし、関羽なども画題に選ばれている。
「仏像・仏画」については、このような紹介がなければ、知ることがなかったと思う。
『図説 浅草寺―今むかし』から
心に残り続ける昭和のおかあさん
『浅草のおかあさん』