浅草オペラの歌劇や歌手たちの歌声を収録したCDがある。
浅草オペラの始まりは、高木徳子が大正6年(1917年)浅草常盤座で上演された「女軍出征」からだと言われている。
それから100年以上経った。
このCDには、東京歌劇座の「女軍出征」が収録されている。
また、他の歌劇や浅草ファンにはたまらない田谷力三、原信子、清水金太郎、安藤文子、大津賀八郎、戸山英二郎(藤原義江)、相良愛子、高井ルビー子、二村定一、岩間百合子などの歌声を聞くことができる。
このCDを聞いてわかったことは多い。
語られている浅草オペラのイメージとどこか異なるのだ。
気づいた点をお話ししていきたい。
・浅草オペラには楽団がいたということを改めて認識した。
今の感覚からすれば、その演奏はあまりにも幼稚だ。
だが、楽団があったからこそ浅草オペラは存在できたと思えてきた。
・録音状態の影響もあると思うが、声も歌い方も今とは違うように思えてならない。
声はいわばエノケンのような声に近く、歌い方は歌詞に対する表現方法が違うのではないかと思う。
・歌劇のセリフは意外に早口である。
・原信子の声は抜きんでているように思う。
その声は写真で見た細見のスタイルと一致する。
・田谷力三の声には人柄が表れている。
その声は本で見た楽屋でのヒトコマ写真のイメージと重なった。
一所懸命歌う姿と人柄が人気を呼んだのではないだろうか。
・大津賀八郎の歌声は独特だ。
歌は上手いが、不思議なことにどこか、なまり(?)があるように聞こえてしまう。
全体を通していえば、その時代、その場所の声といったものが存在していたように思えてならない。
どこか父親、母親、昔の浅草の人の声とテンポ、言い回しに似ている。
これが、かつての「浅草の声」なのだろうか。
浅草で一番変わってしまったところといえば六区だ。
そこには六区復興に向けて関係者のたいへんな努力があったと思う。
ただ、この場所にオペラ上演館が並んでいたことを私たちは忘れかけている。
このCDに浅草オペラ女優の中で最年少組であった相良愛子の歌声が収録されていた。
収録年は不明だが、相良愛子は1906年生まれだから、録音当時、相当に若かったことが推測できる。
そんな彼女が一所懸命に歌っている声を聞いて、胸が熱くなった。
オペラ俳優、オペラ女優たちは、浅草の地で一所懸命歌ったのだ。
私たちは、この地で一所懸命歌った人の声をけっして忘れてはならないと思う。
浅草で一番変わった場所といえば六区だ。
かつてこの地は日本一の興行街だった。
※なお、浅草オペラには多くのオペラ俳優、女優が登場する。
小針 侑起 氏が書いた『あゝ浅草オペラ』を併せて読むと、100倍楽しめることは間違いない。
『あゝ浅草オペラ』
心に残り続ける昭和のおかあさん
『浅草のおかあさん』