浅草のおかあさん

第1話 浅草にいるおかあさんたちは星由里子タイプの美人

浅草の子供たちにとって、自分の入学式や卒業式、父兄参観日などは、それ自体どうでもいい話である。
そんなことよりも、その日は自分のおかあさんが「おめかし」をする日というところがポイントなのだ。
だから、式典の最中にちらちらと自分のおかあさんの姿ばかり追い、「おれは、こんなおかあさんの下に生まれてきて幸せだ」とつくづく思う。
校長の祝辞などは遠くで聞こえる汽笛くらいの存在である。
浅草っ子はそんなおかあさんたちのギャップを楽しんで育ってきた。

 

浅草にいるおかあさんたちの顔は、強いて言えばあっさり顔である。ちょっと掘り下げて言えば、あっさりさと端正さが掛け合わさったような顔である。だから、知らない人から見ればきつく映る。おまけに、おかあさんたちの声は低めだから、余計に取っつきにくく思える。
ただ、この顔が浅草を支えている。
浅草といえば、伝統の技や芸を守り抜いている男衆に目が行きがちだが、そんな男たちを支えてきたのは、他ならぬこのおかあさんたちである。

 

「浅草のおかあさん」も、こんな浅草にいるおかあさんたちと同じタイプの顔をしていた。
浅草のおかあさんの顔は、目、鼻、口、耳、どれをとっても派手さはないが、それらがバランスよく卵型の顔に収まっていた。
目は一重瞼だったので、ほかの浅草にいるおかあさんたちに比べ、いくぶん、やわらかい印象を与えていた。
髪はアップし、ウエーブがかかっていた。背は当時の女性に比べ、やや高かったと思う。
この人の魅力は組み合わせにあった。顔のパーツは卵型の顔に合っていた。卵型をした顔はアップした髪とよく合っていた。
卵型の顔とアップした髪はこの人の姿に合っていた。この人を見ると、すべてがこの人に合っているという帳尻になる。
浅草のおかあさんとすれ違うと、思わず男も女も振り返ったが、意外に小造りな顔をしていることに気づき、ほっとしたような感覚を覚えた。

 

『浅草のおかあさん』目次

 

 

 

◆「浅草のおかあさん」と呼ばれた女性の物語

浅草のおかあさん

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第1話 浅草にいるおかあさんたちは星由里子タイプの美人
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