浅草の子供たちにとって、自分の入学式や卒業式、父兄参観日などは、それ自体どうでもいい話である。 そんなことよりも、その日は自分のおかあさんが「おめかし」をする日というところがポイントなのだ。 だから、式典の最中にちらちら […]
第2話 浅草の商売はおかあさんたちが支えている
浅草は商売の街である。だから浅草の男衆はさぞかし愛想がいいかと思う。実際はまったく逆である。きわめて愛想が悪い。 浅草を人情の街と期待した人は、そんな姿を見て、自分が嫌われたのではないかと思ってしまう。 そんな浅草の旦那 […]
第3話 浅草の学習院「浅草寺幼稚園」
浅草っ子が大人になって、おかあさんを思い浮かべるとき、真っ先によぎる光景は浅草寺幼稚園である。 うららかな春の日に、おかあさんに手を引かれて行った入園式のことを思い出すからである。 浅草っ子にとっては、この光景がおかあさ […]
第4話 先生を自慢しあうおかあさんたち
浅草にいるおかあさんたちをつくづく誇りに思うときがある。 おかあさんたちが、子供の先生を自慢しあうのを、聞くときだ。 浅草のことだから、先生のことをサルだとか、カバに似ているなんてことは言う。 だが、先生のことをけっして […]
第5話 「被官稲荷」
「被官稲荷」は幕末の町火消であり、侠客でもあった新門辰五郎が女房の病気が治るようにと山城(京都府)の伏見稲荷に祈願して、全快したお礼に建てた稲荷である。 「被官」は文字通り官を被るという意味である。その名から就職、出世に […]
第6話 「音のヨーロー堂」
おかあさんたちは、子供たちに無性に習いごとをさせたがった。 おかあさんたちの格好の標的となったのは、いまも健在の「音のヨーロー堂」である。 ヨーロー堂は、「雷門」の大提灯と同じ並びの雷門通り沿いにある。「雷門」の左横手に […]
第7話 おかあさんと六区で映画
浅草っ子の音楽との付きあいの始まりがヨーロー堂ならば、映画との付きあいの始まりは、間違いなく六区だった。 音楽との付きあいを、おかあさんたちが取りなしてくれたが、映画との付きあいにも、おかあさんたちがいた。 […]
第8話 「ミカワヤ」のケーキ
もらってうれしいものの一つに、「ミカワヤ」のケーキがあった。あったということは、いまは残念ながらない。 「ミカワヤ」は、オレンジ通りの「アンヂェラス」の並びと、雷門仲通り沿いにあった。二店あったということになる。 浅草で […]
第9話 なごりを惜しむ「正華」の餃子
浅草の家を訪ねてきた人をどんな食べ物屋に連れていったらいいかは、けっこういい問題だ。 浅草は食べ物の街。おいしい店がありすぎて困ってしまうからである。 私の家では、よく「駒形どぜう」に連れていった。 入れ込 […]
第10話 浅草の女になる三社祭
浅草の夏は三社祭で始まる。人々の頭の上で揺れる神輿(みこし)。男たちの「セイヤッ、セイヤッ」の掛け声。あまりにも有名な光景である。 だが、浅草っ子は、別な思いもこみあげてくる。 三社祭になると、おかあさんの顔つきがまるで […]