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第12話 おかあさんと育てた朝顔

浅草っ子にとっては、三社祭が終わり、五月と六月の最終土日に開かれる「お富士さん」と呼ばれる浅間神社(せんげんじんじゃ)での植木市、七月の九日と十日に観音さまの境内で開かれる「ほおずき市」を迎える季節が一番楽しい季節である。

三社祭を終え、ほっとした季節であり、おかあさんたちもいつものようにやさしい顔に戻った。

 

七月の六、七、八の三日間、入谷で「朝顔市」が開かれる。そこで買った朝顔の鉢が浅草中の家の前に置かれた。

しかし、おかあさんと一緒に朝顔を種から育てたという浅草っ子は多い。私もその一人だ。

私たちにとって、これが植物、生命との最初の出会いだった。

種をまき、ジョーロで水をやる。すると、土の中からかわいい双葉がひょっこり現れる。そのあまりにも弱々しい双葉が次第に緑色になって大きくなっていく。それだけでも驚きなのに、今度はツルまで出てくる。魔法の世界を見ているようだ。おかあさんが、ツルが巻きつくように木の棒を鉢に刺してくれる。ツルは木の棒にらせん状に巻きつきながら上に上にと伸びていき、つぼみをつける。つぼみは夏の海岸に広がるパラソルを折り畳んだようになっている。おかあさんから「明日の朝、咲きそうだね」と言われ、「うん」とうなずく。その日の夜は眠れない。朝起きて、鉢の前に駆け寄ると、真っ青な色をした花が開いていた。

朝顔を育てるということは、浅草っ子とおかあさんたちの共同作業だったが、おかあさんたちからすれば、朝顔の成長は子供の成長そのものだったに違いない。大きな葉をつけるように、丈夫に育つように、立派な花を結ぶようにと願ったのだと思う。

 

朝顔が咲いてからも驚くことばかりだった。

町中に咲いている朝顔を見ると、真っ青な朝顔もあれば、紫色の朝顔も、水色の朝顔もある。私たちはよその家の朝顔の鉢をじっと見つめ、生き物には種類や特性といったものがあることを知った。

七月の六、七、八の三日間、入谷で「朝顔市」が開かれる。そこで買った朝顔の鉢植えが浅草中の家の前に置かれた。
しかし、おかあさんと一緒に朝顔を種から育てたという浅草っ子は多い。
私たちにとって、これが植物、生命との最初の出会いだった。

 

種をまき、ジョーロで水をやる。すると、土の中からかわいい双葉がひょっこり現れる。そのあまりにも弱々しい双葉が次第に緑色になって大きくなっていく。それだけでも驚きなのに、今度はツルまで出てくる。魔法の世界を見ているようだ。
おかあさんが、ツルが巻きつくように木の棒を鉢に刺してくれる。ツルは木の棒にらせん状に巻きつきながら上に上にと伸びていき、つぼみをつける。つぼみは夏の海岸にあるパラソルを折り畳んだようになっている。
おかあさんから「明日の朝、咲きそうだね」と言われ、「うん」とうなずく。その日の夜は眠れない。朝起きて、鉢の前に駆け寄ると、真っ青な色をした花が開いていた。

 

朝顔を育てるということは、浅草っ子とおかあさんたちの共同作業だったが、おかあさんたちからすれば、朝顔の成長は子供の成長そのものだったに違いない。
大きな葉をつけるように、丈夫に育つように、立派な花を結ぶようにと願ったのだと思う。

 

「浅草のおかあさん」は白い半袖のシャツを着ていた。ブラウスではなかった。当時は、男性が着るような半袖のシャツをおかあさんたちは着ていたように思うのだ。
浅草のおかあさんは、子供たちの朝顔の鉢を、子供たちと一緒に回った。
夏の朝日を浴びて、腰をかがめ鉢をのぞきこんでいた浅草のおかあさんの横顔は輝いていた。
爽やかな朝、夏の朝日、朝顔、浅草のおかあさんの横顔。どの一つもけっして欠けることがないように、私たちが守り抜いている記憶である。

 

浅草のおかあさん
第12話 おかあさんと育てた朝顔 から

 

爽やかな朝、夏の朝日、朝顔、「浅草のおかあさんの横顔」 浅草っ子が守り抜いている記憶である。

 


昭和の時代から平成にかけて「浅草のおかあさん」と呼ばれた女性がいた。
浅草のおかあさん

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