2023.04.16更新
浅草のケーキ屋さんの代表格だったアンヂェラスは残念ながら2019年2月に閉店した。
アンヂェラスのケーキのなかに、店の名と同じ『アンヂェラス』というケーキがあった。
このことを、『浅草のおかあさん』のなかで、こう表現している。
浅草でケーキといえば、やはり「アンヂェランス」が有名である。「アンヂェラス」はあの川端康成先生、池波正太郎先生が通った店として知られている。
「アンヂェラス」の名物は水で抽出するダッチコーヒーだ。ダッチは英語のオランダだ。戦前のオランダ領インドネシアで水による抽出法が考案されたことから、その名前がある。このダッチコーヒーの中に梅酒入りの『梅ダッチコーヒー』というものもあって、池波正太郎先生が発案者の一人だといわれている。
私の家では「アンヂェラス」のケーキの中でも、クラシカルな味わいのあるチョコレートケーキをよく買ったが、店と同じ名前が付いた『アンヂェラス』という小さなロールケーキも有名だ。
この『アンヂェラス』には、外側をホワイトチョコレートに包んだものとミルクチョコレートで包んだものと二種類あり、ホワイトチョコレートの場合はスポンジに生クリーム、ミルクチョコレートの場合はモカクリームが入っている。
つまり、「アンヂェラス」はクリスマスの薪の形をしたノエルだったのだ。
外側をホワイトチョコレートで包んだものとミルクチョコレートで包んだもの、両方ともバタークリームをベースにしていた。
フォークを当てたときのパリッとした感覚がたまらなかった。
その味は、何十年も経っても変わらなかった。
『アンヂェラス』を食べると、青春時代にかえったような気がした。
「自分はその時代にたしかに浅草にいた!」といった感覚にもなったし、浅草の街が私を育ててくれたという思いまで胸を襲ってきた。
最後にアンヂェラスに行ったとき、名物の水出しコーヒーである「ダッチコーヒー」とケーキを頼んだ。
奥のテーブルに、ひと目で浅草のおかあさんたちとわかる四人組が、やはり「ダッチコーヒー」にケーキを頼んで談笑していた。
その光景を思い出す。
心に残り続ける昭和のおかあさん
『浅草のおかあさん』