アンヂェラスも残念ながら2019年2月に閉店してしまった。
『浅草のおかあさん』のなかでミカワヤのケーキを取り上げたが、アンヂェラスのこともミカワヤと同じくらい書いている。
ミカワヤのケーキとアンヂェラスのケーキ。両者の趣きは異なるが、共に浅草を代表するケーキであり、片方の存在なしには語れないところもあったからだ。
「ミカワヤ」と「アンヂェラス」がオレンジ通りに並んであったということも、いまから考えると、ものすごく不思議な感じがするが、その光景はなぜか浅草の街に合った。
「アンヂェラス」のケーキの中でも、店の名をとった『アンヂェラス』はクリスマスの薪の形をしたノエルだが、外側をホワイトチョコレートで包んだものとミルクチョコレートで包んだものと二種類あり、共にバタークリームをベースにしているミソだ。
フォークを当てたときのパリッとした感覚がたまらなかった。
その味は、何十年も経っても変わらなかった。
『アンヂェラス』を食べると、青春時代にかえったような気がした。
「自分はその時代にたしかに浅草にいた!」といった感覚にもなったし、浅草の街が私を育ててくれたという思いまで胸を襲ってきた。
「アンヂェラス」は、川端康成先生、池波正太郎先生、漫画家の手塚治虫先生が通った店として知られる昭和21年創業の歴史ある店だった。
最後にアンヂェラスに行ったとき、名物の水出しコーヒーである「ダッチコーヒー」とケーキを頼んだ。
奥のテーブルに、ひと目で浅草のおかあさんたちとわかる四人組が、やはり「ダッチコーヒー」にケーキを頼んで談笑していた。
その光景を思い出す。
昭和の時代から平成にかけて「浅草のおかあさん」と呼ばれた女性がいた。
『浅草のおかあさん』