第13話 おかあさんとかき氷

おかあさんや子供たち、お手伝いさんが、かき氷を食べているときは、その家のおとうさんの機嫌がいいときである。
浅草のおとうさんたちは気難しかったから、夕食を食べているとき、ちょっとしゃべっただけで手が飛んできた。
いまの時代は、夕食はみんなで楽しくが当たり前になっているが、当時は食事するときは黙って食べなくてはならないということが各家庭に浸透していた。

ところが、そんな気難しいおとうさんが、どんな風の吹き回しか、「おい、かき氷でもとるか」と夕食が終わった時分におかあさんに言うときがあった。
その言葉を聞いたおかあさんは、朝顔のつぼみがぱっと開いたような顔になった。

のちのち、おかあさんが一番楽しかったことはなんだったのだろうかと思うようになった。
まさか、私たちと一緒にかき氷を食べていたときとは思えないが、もしかすると、楽しそうにかき氷を食べている私たちを見ているときが、一番楽しかったのかもしれない。

 

浅草のおかあさん
第13話 おかあさんとかき氷 から

 

おとうさんたちは機嫌がいいとき、かき氷の出前を頼んだ。そんな様子が外にも伝わってきた。

 

心に残り続ける昭和のおかあさん
浅草のおかあさん

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第13話 おかあさんとかき氷
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