「佐藤医院」は、老先生と看護師を兼ねた奥さまがいるだけの医院だった。建物は洋館づくりで、六畳ほどの待合室と戸を一枚隔て診察室があるだけだった。
診察室に入ると、ガラス越しに入った日差しが先生の顔半分を照らしていた。先生は、「どうなさいましたか?」と、いつもやさしく尋ねた。
「佐藤医院」はそんな個人医院にすぎなかったが、先生は東大出で名医の誉れ高かった。どんな病気でもピタリと見立てるという評判が立ち、「佐藤医院」に行ったおかげで病気が発見されたケースも多かった。
「浅草のおかあさん」は「佐藤医院」に絶大な信頼を寄せていた。
あるとき、会社の寮にいるBさんの顔色が、浅草のおかあさんの目に留まった。Bさんの顔が青白かったからである。
『浅草のおかあさん』
第21話 「佐藤医院」 から
浅草通りはさんだ駒形二丁目に「佐藤医院」はあった。
心に残り続ける昭和のおかあさん
『浅草のおかあさん』
第21話 「佐藤医院」