浅草寺(観音堂)に入ると、内陣の前に大きな賽銭箱がある。
お賽銭と祈りに夢中になり見逃してしまうものがある。天井に描かれた絵である。
天井の真ん中に川端龍子画「龍之図」、それを挟むように堂本印象画の「天人之図」と「散華之図」がある。
観音堂は戦災で焼失した。再建が叶ったのは昭和32年(1958年)だから、その際に描かれたものである。
私たちは天井絵をジックリ見ることは稀だが、その昔、天井絵に目がとまったピエール・ロチというフランスの海軍将校がいた。
もっとも、彼が見た天井絵はおそらく1880年代と思われるから、だいぶ昔の話だ。
当然、いまの天井絵とは異なる。
彼はこんな記述をしている。
「わたしの眼は、とある蒼白い透明な月の女神の上にとまる。それは雲の背景の上に冷えきった色で描かれ、死女のようにほほ笑んでいる。二羽の白い鳩がその額縁の高いところにとまり、かがみこむような様子をいてやはり女神を覗き込んでいる……」
そして、この前に「上の方に在るさまざまな怪獣や、絵や、象徴などを当てもなく見回しながら」と記述している。
はなはだ抽象的な表現だが、その中に、龍も必ずいたように思えるのだ。
ということは、当時、いまと同じような天井絵が描かれていたのではないだろうか?
西洋人の眼からすれば、そのように見えたのだ。
余談だが、浅草の人で天井絵をジックリ見た人は少ないだろう。
私は幼かったときに天井絵を見た。
そのときの印象は、ピエール・ロチに近いものがあった。
それ以来、ジックリ見ることはなかったのだ。
2つの本の記載内容を参考にしました。
心に残り続ける昭和のおかあさん
『浅草のおかあさん』
浅草寺の天井絵をジックリ見たことありますか?