第21話 「佐藤医院」
「佐藤医院」は、老先生と看護師を兼ねた奥さまがいるだけの医院だった。建物は洋館づくりで、六畳ほどの待合室と戸を一枚隔て診察室があるだけだった。 診察室に入ると、ガラス越しに入った日差しが先生の顔半分を照らしていた。先生は […]
浅草の魅力はおかあさんたちにあり!
「佐藤医院」は、老先生と看護師を兼ねた奥さまがいるだけの医院だった。建物は洋館づくりで、六畳ほどの待合室と戸を一枚隔て診察室があるだけだった。 診察室に入ると、ガラス越しに入った日差しが先生の顔半分を照らしていた。先生は […]
八百屋さんや、酒屋さんなどの店頭に黙って立っていた少年たちは、やがて、仲間の店員たちとふざけながら立つようになる。 だいぶ威勢のいい言葉も飛び出てくる。 そんな店員たちの前を、「浅草のおかあさん」が「あらあら、みなさんお […]
浅草の亭主たちは、女房がちょっと着替えでもしていると、どこからにおいをかぎつけたのか、「おい、どこに出かけるんだ?」と不機嫌そうに顔をのぞかせる。 女房が、「ちょっと、そこまで」と答えると、今度は、「いつ、帰ってくるんだ […]
コートを着る季節になると思い出すことがある。 風邪をひいたとき、おかあさんが出前をとってくれた浅草の洋食屋さんのことである。 浅草には、「洋食」あるいは「キッチン」という言葉がものすごく合っている。 「洋食」「キッチン」 […]
二階で試験勉強をしていると、「やーきいも いしやーきいも やきたて」という声が聞こえてきた。 石焼きいもの声は、ふけゆく路地のさびしさを感じさせる。 すると、一階の居間から、おかあさんとお手伝いさんが「買おうか?」と相談 […]
浅草の子供たちは、寿司の出前をとってみんなで食べるとき、イカやタコ、鮪の赤身など無難なところから手を出していく。 その結果、いつも寿司桶にはトロやウニが残ってしまう。 おかあさんから「食べな」と言われると、「おかあさんが […]
「浅草気質」については、浅草出身の文人久保田万太郎先生が『浅草風土記』の中で、『浅草繁昌記』の記述を引用し語っている。 要約すると次のとおりとなる。 「浅草には、政治家や学者、官吏がいない。政治家や学者、官吏は、明治維新 […]
大晦日の浅草は賑やかで華やかである。昼から「雷門」の大提灯の前は人でごった返し、その黒山は年賀の飾りつけを済ませた仲見世へと続く。 一年の御礼とひと足早い初詣気分を味わいたいのだろう。 だが、「雷門」から、通りの向かいを […]
真っ青な秋晴れだ。 人の頭ってこんなに黒いものかと思った。 床屋の「スガタミ」の前、提灯屋の「山崎屋」の前、酒販店の「池田屋」の前も真っ黒で、そんな真っ黒が「松喜」まで続いている。 左に目をやると、真っ黒が雷門仲通りまで […]